オンライン完結の部屋探しは増えるのか?非対面の賃貸契約が反響対応に与える影響と設計

「来店せずに契約まで進められますか」。反響のメールにこの一文が添えられている頻度が、ここ数年で明らかに増えました。転勤で来月から福岡に住む会社員、地方の大学に合格して上京する学生、海外から帰任する家族。彼らにとって、部屋を見るために現地へ行くことは、時間とお金のかかる大きなハードルです。

一方で、店舗の側はどうか。オンライン内見の希望に「一度はご来店いただいた方が」と返してしまう営業は、まだ少なくありません。悪気はなく、対面で話した方が決まりやすいという経験則が染みついているからです。ただ、その返信の裏で、お客様はオンラインで完結できる別の会社を探しています。

この記事では、オンライン完結の部屋探しが本当に増えているのかを制度と需要の両面から確かめたうえで、反響の初回対応から内見、申込、重要事項説明、契約、鍵の受け渡しまでを、来店なしで進めるための設計を整理しました。すべてをオンラインに切り替える話ではなく、お客様が選べる状態を作る話です。

来店なしの契約は制度上すでに可能になっている

オンライン完結の部屋探しが広がる土台は、法制度の側で整っています。

賃貸借契約における重要事項説明のオンライン実施、いわゆるIT重説は、2017年10月から本格運用が始まりました。テレビ会議などの映像と音声で、宅建士がお客様に重要事項を説明できる仕組みです。次に、2022年5月に施行された宅地建物取引業法の改正で、重要事項説明書や契約書面の電子交付が認められました。それまでは説明はオンラインでも書類は紙で郵送する必要がありましたが、この改正で、説明から書面の交付、契約締結まで、すべてを電子で完結できるようになっています。

つまり、来店なしで賃貸契約を結ぶことは、制度上はすでに何の問題もありません。残っているのは、店舗側の運用と、管理会社や貸主の同意、そしてお客様がその選択肢を知っているかどうか、です。

需要の側も動いています。2020年以降、感染症対策をきっかけにオンライン内見やIT重説の利用が急増し、その後も遠方からの転居や、来店の手間を避けたい若い世代を中心に、非対面での部屋探しは定着しつつあります。全体の何割がオンラインで完結しているかを示す確かな統計は見当たりませんが、大手ポータルサイトがオンライン内見対応の物件を絞り込み条件として用意していることからも、検索する側の需要があることは分かります。

私の見方では、賃貸の部屋探しがすべてオンラインに置き換わることはありません。実際に住む部屋を自分の目で見たい人は多く、その気持ちは合理的です。ただ、「来店できない人」「来店したくない人」の反響を、来店を前提にした対応で落としている店舗は多い。オンライン完結の需要は、その落としている反響の中にあります。

オンライン完結を求める反響は、対応の速さで決まる

オンライン完結を希望するお客様は、店舗との接点がすべて画面越しです。対面で挽回する機会がないぶん、初回対応の速さと分かりやすさが、そのまま店舗の評価になります。

不動産情報サイト事業者連絡協議会(RSC)の利用者調査では、部屋探しをする人は平均3社以上に問い合わせており、不動産会社に満足した理由の1位は「返信が早かった」でした。遠方から探しているお客様は、来店できないぶん、さらに多くの会社に同時に問い合わせている可能性が高い。5分以内、遅くとも1時間以内の返信を目標にしてください。

初回の返信では、「オンラインで進められる」ことを明言します。「はい、ご来店なしでご内見から契約まで進められます。オンライン内見は〇曜日の〇時から対応可能です。お申込みはスマホから、重要事項説明はビデオ通話、契約は電子契約で行いますので、鍵のお受け取りまで一度もお越しいただかなくて大丈夫です」。この一文があるだけで、他社との差がつきます。「まずはお電話で詳しくお伺いします」という返信は、遠方のお客様にとって「この店は面倒そうだ」と映ります。

反響の一次対応を担うのが営業でなくても、この案内はできます。営業が内見で外に出ている時間帯に届いた遠方からの反響を、店舗内の一次対応担当や外部のオペレーターが受け、「オンライン対応可能」と伝えたうえでオンライン内見の希望日時を押さえておく。営業は戻ってから、日程の決まった内見の準備に入るだけで済みます。

オンライン内見を「見せる」から「決められる」にする

オンライン内見は、単に部屋をカメラで映すことではありません。お客様が画面越しに「ここに住める」と判断できる材料を渡すことです。

まず、事前準備です。内見の前日までに、間取り図、室内の写真20枚程度、周辺環境の写真(最寄り駅からの道、スーパー、コンビニ)、初期費用の概算明細を送っておきます。当日の内見は「初めて見る」時間ではなく、「事前に見たものを確認する」時間にします。この違いで、内見後の決断の速さが変わります。

当日は、玄関を入るところから始めて、生活動線の順に映します。玄関、廊下、水回り、居室、収納の中、窓からの眺め、ベランダ。収納は必ず開けて内部を見せ、コンセントの位置と数、窓のサッシの種類、水圧(蛇口を開けて音を聞かせる)、日当たり(時刻を伝えながら)を、聞かれる前に説明します。画面越しでは分からないことを、営業が代わりに確かめて言葉にする。これがオンライン内見での営業の仕事です。

一つ、実際にやってみて効果を感じた工夫があります。内見中に「〇〇さんなら、ここにベッドを置いて、デスクはこの窓際になりますね」と、事前にヒアリングした家具や生活のイメージを部屋に重ねて話すことです。対面の内見ではお客様が自分で立って想像できますが、画面越しではそれが難しい。営業が代わりに想像を言葉にすると、お客様の頭の中に部屋が立ち上がります。

内見が終わったら、録画した動画を送ります。家族に見せたい、もう一度確認したい、というお客様は多く、動画があるだけで申込までの期間が短くなります。撮影と共有について、事前に管理会社の許可を取っておいてください。

申込から契約、鍵の受け渡しまでを来店なしで設計する

オンライン内見のあと、申込から契約までの流れを、来店なしで完結させる設計にします。ここで一つでも「この書類だけは店舗で」があると、お客様にとっては来店と同じ負担になります。

申込は、Web申込フォームか、申込書のPDFをスマホで記入して送ってもらう形にします。本人確認書類、収入証明などは、スマホで撮影して送ってもらいます。保証会社の審査は、多くの保証会社がWeb申込に対応しているので、書類の受け渡しも電子で済みます。

重要事項説明はIT重説で行います。実施には、お客様の同意、映像と音声で双方向にやり取りできる環境、事前に重要事項説明書を送付していること(電子交付の場合はお客様の承諾)、宅建士証を画面上で提示すること、といった要件があります。国土交通省が公開しているIT重説のマニュアルに沿って、店舗の手順書を作っておくと、宅建士が変わっても同じ品質で実施できます。

遠方のお客様の場合は、来店せずに契約手続きを進めるケースも多くあります。
契約書は電子契約だけでなく、郵送でやり取りする場合もあります。重要なのは契約方法そのものではなく、申込後に契約方法や必要な手続きを確認し、入居希望日から逆算してスケジュールを組むことです。
特に郵送契約の場合は、書類の発送・返送にかかる日数を考慮する必要があります。また、IT重説を行う場合は、実施可能な日時についても調整します。契約手続きの段取りが遅れると、書類の返送や必要手続きが入居日に間に合わなくなる可能性があるため注意が必要です。
鍵の受け渡し方法についても、契約手続きを進める中で管理会社へ確認します。管理会社や物件によって、管理会社・仲介会社での受け取り、現地での受け渡し、キーボックスなど方法が異なります。
遠方のお客様の場合は特に、「鍵をどこで、どのように受け取るのか」を事前に明確にし、お客様の移動スケジュールも考慮して案内することが重要です。
遠方のお客様への対応では、物件提案時にすべてを確認するのではなく、申込後に「契約方法」「IT重説」「必要書類」「入金」「鍵渡し」などの各工程を確認し、入居日から逆算して漏れなく進行管理することが重要です。

オンライン完結に向かない場合を見極める

すべての反響をオンライン完結に誘導する必要はありません。向いていないケースを見極めて、対面を提案した方がよい場面もあります。

自分の目で見なければ決められないと明言しているお客様には、対面の内見を勧めます。オンライン内見を無理に勧めると、「見せたくない理由があるのでは」と疑われます。ファミリー層で、周辺環境や学区を家族全員で確かめたい場合も、対面の方が決まりやすいです。オンライン内見で候補を2件に絞り、最後の1回だけ現地に来てもらう、という組み合わせは相性がよく、遠方のお客様の来店回数を減らしながら納得感を保てます。

貸主や管理会社がIT重説や電子契約に対応していない物件も、来店なしでは完結できません。この場合は、正直にそう伝えたうえで、書面の郵送と現地での鍵受け渡しで進めるか、対応可能な別の物件を提案するかを、お客様に選んでもらいます。

店舗として整えておくこと

オンライン完結の反響に安定して対応するために、店舗として準備しておく項目をまとめます。

初回返信のテンプレートに、オンライン対応可能であることと、内見から契約までの流れを一文で入れておきます。反響の一次対応をする人が営業でなくても、この案内ができるようにします。

オンライン内見の機材(スマホのジンバル、モバイルルーター、イヤホンマイク)を店舗に用意し、内見の手順(映す順番、確認する項目、録画の共有)を手順書にします。

そして、自社のホームページとポータルの店舗紹介に、「来店不要で契約可能」と明記します。遠方からのお客様は、問い合わせる前にこの記載を探しています。

まとめ

来店なしの賃貸契約は、2017年のIT重説の本格運用と2022年の宅建業法改正による書面の電子交付の解禁で、制度上はすでに完結できるようになっています。

すべての部屋探しがオンラインに置き換わることはありませんが、来店できない人や来店したくない人の反響を来店前提の対応で落としている店舗は多く、オンライン完結の需要はそこにあります。

反響の初回返信で「来店なしで進められる」と明言し、オンライン内見は事前資料と当日の確認、録画の共有で「決められる」内容にし、申込、IT重説、電子契約、鍵の受け渡しまでを来店なしで設計します。この準備が、遠方からの反響を成約に変えます。

よくある質問(FAQ)

賃貸の契約は来店せずにオンラインだけで完結できますか?

できます。2017年10月からIT重説(オンラインでの重要事項説明)が本格運用され、2022年5月の宅建業法改正で重要事項説明書と契約書の電子交付が認められたため、内見から契約まで来店なしで進められます。ただし貸主や管理会社が電子契約に対応している必要があります。

オンライン内見ではどのような点を映せばよいですか?

玄関から生活動線の順に、水回り、居室、収納の内部、窓からの眺め、ベランダを映し、コンセントの位置と数、サッシの種類、水圧、日当たりなど、画面では分からない点を営業が確かめて言葉で伝えます。事前に写真と間取り図を送り、当日を確認の時間にすると決断が早まります。

IT重説を行うために必要な条件は何ですか?

お客様の同意、映像と音声で双方向にやり取りできる環境、重要事項説明書を事前に送付していること(電子交付の場合はお客様の承諾)、宅建士証を画面上で提示することなどが要件です。国土交通省が公開するマニュアルに沿って手順書を作っておくと確実です。

オンライン内見を希望するお客様への初回返信では何を伝えるべきですか?

来店なしで内見から契約まで進められることを明言し、オンライン内見の対応可能な日時、申込から契約までの流れ(スマホ申込、IT重説、電子契約、鍵の受け取り方法)を一文で伝えます。「まずはお電話で」という返信は、遠方のお客様には面倒に映ります。

オンライン内見に向かないお客様はいますか?

ご自身の目や耳で確認してから決めたいお客様には、現地での内見をおすすめします。
「自分の目で見なければ決められない」というお客様や、家族全員で周辺環境まで確認したいファミリー層には、対面での内見をおすすめします。
特に、騒音・周辺の雰囲気・日当たり・におい・室内の広さの感じ方などは、写真や動画だけでは伝わりにくく、受け取り方にも個人差があります。こうした点を重視されるお客様には、実際に現地で確認していただいた方が、入居後の「思っていたのと違った」を防ぎやすくなります。
一方、遠方などの理由で何度も現地へ行くことが難しい場合は、オンライン内見で候補を2件程度まで絞り込み、最終候補のみ現地で確認するといった組み合わせも有効です。